研究室探訪
特任教授菊入 みゆきMiyuki Kikuiri
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Q1 先生の専門分野について教えてください。
私の専門は、産業・組織心理学です。企業などの組織や集団の中で、人がどのような意識を持つか、どのような行動をとるか、それが成果にどうつながるか、といったことを研究しています。この分野には、リーダーシップやコミュニケーション、最近ではダイバーシティ等、様々な研究が含まれます。私は主に、モチベーション(意欲)について研究しています。
Q2 具体的にどんな研究をされていますか。
職場におけるモチベーションの「伝染」について研究を続けています。皆さんは、やる気のある友達がそばにいると、自分もつられてやる気になるという経験がありませんか? それがまさに、モチベーションの伝染です。
私が行った研究でも、一緒に仕事をしている同僚のモチベーションが伝染することがわかりました。自己充実的達成動機(自分なりの目標に向けたモチベーション)と競争的達成動機(人に勝つためのモチベーション)という2種類のモチベーションについて調べたのですが、どちらも伝染していました。
図の青い線を見てください。同僚に対して、「この人、自分なりの目標に向けてがんばっているなあ」と思う(同僚の自己充実的達成動機の推測)だけで、同じように「自分なりの目標に向けてがんばろう」という自己充実的達成動機が強くなります。人に勝つためのモチベーションの場合も同じです。
しかし、ここに感情が介入すると結果が変わってきます。図の赤い線を見てください。「自分なりの目標に向けたモチベーション」が高い相手に対しては、「こんな人になりたい」「こんな人と一緒に働きたい」という感情が起こり、モチベーションの伝染が起こります。しかし、「人に勝つためのモチベーション」が高い相手に対しては、「こんな人になりたくない」「こんな人と一緒に働きたくない」という気持ちが起こり、伝染が発生しないばかりか、逆にモチベーションが下がることになります。
いずれにしても、私たちのモチベーションは伝染し合っています。人から自分にも伝染してきますし、自分からまわりの人にも伝染させているのです。
Q3 私たちが産業・組織心理学について学ぶことで得られるものは何ですか。
私たちは学校のクラス、友達のグループ、部活動、会社などの職場、あるいは家族など、なんらかの組織や集団に属して生活しています。その中で発生する様々な力学に影響を受けながら、生活しているのです。モチベーションの伝染は、その一つの例です。組織や集団の中で活動するときに、こうした知識を持っていると、例えば、自分がなぜ今やる気が出ないのか、どうすればやる気を起こせるのかがわかったりします。起こっている現象をより深く理解できたり、より効果的に行動したりすることが可能になります。